環境と糖尿病(その1)
Ⅰ はじめに
糖尿病や甲状腺疾患などの内分泌・代謝系疾患は、様々な環境の変化によってその疾患の発症や進展リスクが影響されます。糖尿病は遺伝的素因と環境要因が相まって発症します。近年の糖尿病、特に2錠型糖尿病の患者数の増加は、生活習慣や社会環境の影響を如実に物語っています。母体の栄養状態は胎児の母体内環境に影響を及ぼし、出生後に糖尿病や肥満の発症リスクに影響します。また、世界にはヨード欠乏による甲状腺障害が多く認められる地域がある一方で、チェルノブイリ原発事故後は放射能による小児甲状腺癌が増加しています。
Ⅱ 2型糖尿病と環境要因
我が国では2型糖尿病の患者数が急速に増加しています。平成24年国民健康・栄養調査報告によると、20歳以上の「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性で15.2%、女性で8.2%でした。2型糖尿病の発症や進展には、環境要因として食事因子、身体活動、肥満やそのほかの生活環境などが指摘されています。
食事因子としては、エネルギー摂取量と各種の栄養摂取量について検討されています。日本人を対象にした調査研究で、総エネルギー量の適正化は糖尿病の予防に効果があることが示されました。しかし、炭水化物摂取量については一定の結果が出ていません。日本人女性に炭水化物摂取率の低い食事と糖尿病発症低下との関連を認めた調査もありますが、炭水化物制限食についてのメタ解析では明確な関連が示されず、他の栄養素の影響も指摘されています。脂質や脂肪酸については、総脂肪摂取量と糖尿病発症との関連は認められませんでしたが、飽和脂肪酸摂取は発症リスクの増加に、不飽和脂肪酸摂取は低下につながるとの報告があります。ω3系多価不飽和脂肪酸は、アジア人のみリスク低下と関連しました。タンパク質については、動物性タンパク質の摂取量の増加が、日本人男性では100g/日を超す赤身肉の摂取が発症リスクとなることが示されています。そのほか、食物繊維摂取や全粒穀物(未精製穀物)はリスクを下げました。
身体活動については、活動量の増加は糖尿病の発症リスクを低下させます。日本人男性(40~55歳)を対象に4年間観察した結果では、通勤の歩行時間が21分以上だと10分以下の場合と比べてリスクが27%減少していました。定期的な中程度の運動でリスクは31%減少し、1週間に2時間半以上の速歩を続けると30%減少しました。一方、テレビの視聴時間が1日に2時間増えるごとにリスクは20%上昇しました。有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングも発症リスクを軽減します。
肥満はインスリン抵抗性と関連して糖尿病発症のリスクです。シンガポール在住の中国人を対象にした研究で、BMIが標準体重域でもそれ以下の群に比べて糖尿病の発症リスクは2.47倍となり、BMIの上昇に伴いリスクも上昇しました。体重減少による糖尿病発症予防の効果も示されています。ウエストヒップ比はBMIよりもリスクと関連性が高く、内臓脂肪型肥満の関与が示唆されました。脂肪肝も糖尿病発症リスクと関連します。また、成人早期(18~24歳)からのBMIの増加が大きいほど発症リスクが増加し、BMIが1Kg/m2増加する毎にリスクは18%増加しました。成人早期での体重増加が糖尿病の発症に重要であることが明らかになりました。
喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクは1.44倍で、用量依存性が示されています。禁煙は短期的には体重増加によりリスクを増大させるが、長期的にはリスクを低減させました。アルコールは飲酒量と発症リスクにU字型の関係があることが示されていますが、BMI22以下の日本人男性では、1日のアルコール摂取量が23g以上では非飲酒者よりもリスクが増大しました。糖尿病の発症予防のために飲酒を勧めるエビデンスは今のところありません。コーヒーは1日2杯以下と比べ6杯以上ではリスクが0.65倍でした。日本人では、緑茶(1日6杯以上:オッズ比0.67)やコーヒー(1日3杯以上:オッズ比0.58)によるリスクの低下が認められています。
精神的ストレスは、日本人男性で発症との関係が認められています。睡眠時間については、45歳以下で6.5時間未満だとリスクが増大していました。交代勤務(シフト勤務)は特に男性でリスクが増大し、長時間労働している場合、シフト勤務があるとリスクが2.43倍になりました。
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