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2024年8月5日

糖尿病と時間栄養学(その1)

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Ⅰ はじめに
 
近年、体内時計と食事や運動との関係を検討する時間生物学が注目されています。食事を適切なタイミングで摂取することで、体内時計を同調させて生活リズムを維持することの重要性が指摘され、さらに体内時計はインスリン分泌にも影響を及ぼし、糖尿病にも関わることが知られています。体内時計と時間栄養学に関する最近の考え方についてみてみましょう。

Ⅱ 体内時計の仕組み
 
夜になると眠くなり、朝になると覚醒するのは、私たちの体の中に時間軸を調整するシステムとして体内時計が備わっているためです。体内のほとんどの組織・細胞には体内時計が存在し、多数の時計遺伝子の発現により1日24時間単位で時間のリズムが調整されています。この時間時計は1997年に哺乳動物で発見され、体内時計は脳だけでなく末梢臓器でも機能していることが分かってきました。さらに、脳の視交叉上核に主時計があり、内臓や血液などの末梢組織にはそれぞれ個別に動く脳・末梢時計が機能していることが明らかになってきました。そして、体内時計を1日24時間の周期で動かすために、私たちの体には、光と食事の刺激を受けて体内時計を日々リセットする仕組みが備わっていて、近年その詳細が明らかになってきました。すなわち、脳の視交叉上核にある主時計は、網膜を通じて入ってきた朝の光を受けてリセットされ、時計が進み始めます。それに対して、臓器などにある脳・末梢時計は光による明暗に関係なく、朝食によって動き出すことが分かってきたのです。例えば、朝食時間を5時間遅らせると、主時計は起床時から動き始めますが、脳・末梢時計は脳の時計との綱引きの結果、2.5時間遅れて動き出すことになり、このように主時計と脳・末梢時計のリズムが乖離するといわゆる時差ぼけのような状態になります。これをオーケストラで例えると、主時計の指揮者は正確なリズムでタクトを振っているのに、脳・末梢時計の奏者が勝手な演奏をして全体のハーモニーが保たれていない状況です。こうして体内時計が不調になると、様々な疾病を招くことになるのです。
 一方、近年では体内時計のメカニズムが詳しく分かるようになり、時間生物学に関する研究が注目されるようになりました。薬理学的には、体内時計に影響を及ぼす薬物を使用することで体内時計を調整することが可能となります。実際に、概日リズムに関係しているメラトニンの受容体刺激薬であるラメルテオンは体内時計の位相を動かすことから、リズム調整も含めて入眠薬として臨床応用されています(商品名ロゼレム錠)。また、薬物の吸収・分布・代謝・排泄に時間変動があることが知られ、たとえば高脂血症治療薬であるスタチン(クレストール錠、リバロ錠)によるコレステロール低下作用は、コレステロール合成酵素活性が高い夜に時間帯の摂取が効果的であるとされています。このように、効果的な薬剤投与のタイミングについて検討する時間薬理学の研究が日々進歩しています。

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