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2021年5月31日

運動療法のメカニズムとその実際(その1)

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Ⅰ はじめに
 
運動は、糖尿病を良くするだけではなく、動脈硬化の他、うつ病や癌の予防にも役立つ可能性が明らかになってきています。その反面、実際の臨床の場では運動療法が大切と分かっているものの、なかなか導入できないという課題もあります。今回は、なぜ運動をすると血糖値が下がるのか、また具体的な運動療法への入り方も、一緒に考えてみます。

Ⅱ 脂肪筋とインスリン抵抗性の関係
 
2型糖尿病の病態として、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)が重要です。インスリンが作用するのは主に肝臓、骨格筋ですが、糖尿病患者ではなぜこれらの臓器でインスリン抵抗性が生じるのかはまだ完全には解明されていません。最近、このメカニズムについて骨格筋細胞への異所性脂肪蓄積「脂肪筋」が注目を集めています。
 脂肪筋とはどのようなものでしょうか?いわゆる「霜降り肉」を例に挙げて考えてみましょう。霜降り肉は、一般的にはその全部を肉という風に表現しますが、目に見える霜降りの部分は実際には骨格筋ではなくて、筋肉に混入した脂肪組織です。
 これに対して、「脂肪筋」というのは霜降り肉の赤い部分、つまり筋肉の細胞内に蓄積した脂質のことを指しています。これらの脂肪は、筋生検をして筋肉組織を特殊な染料で染色して顕微鏡で見て初めて肉眼で確認できるもので、いわば「目に見えない霜降り」といっても良いものです。現在、「脂肪筋」は、筋生検や染色なしでも、1H-MRS法という方法で非侵襲的に測定可能になっています。
 この方法を用いた研究で、筋肉のインスリン抵抗性は、いかにも体に悪そうにみえる霜降りよりも、目に見えない部分つまり「脂肪筋」と強く関連していることが明らかとなっています。また、肝臓についても「脂肪肝」が肝臓のインスリン抵抗性を規定する重要な因子であると考えられています。
 このことは、目に見える肥満だけではなく、これらの目に見にくい肥満(異所性脂肪蓄積)の解消が2型糖尿病の治療を考えた上で重要だということを示しています。特に、日本人では、欧米人と比較して痩せていても2型糖尿病や心血管障害を発症しやすいことが知られていて、そのメカニズムとして脂肪肝や脂肪筋が重要である可能性があります。例えば、見た目が痩せていたとしても異所性脂肪が増加している、つまり肝臓、骨格筋細胞内は肥満状態であれば、発症のリスクが高まる恐れがあります。
 最近CTを用いた研究により、日本人では米国の白人男性と比較して肥満に伴って脂肪肝になりやすいことが明らかとなってきていますので、これらの異所性脂肪の蓄積のしやすさは、日本人における民族的な特徴で、それが日本人が痩せていても2型糖尿病になりやすいというメカニズムになっている可能性があります。
 

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