非アルコール性脂肪性肝疾患(その3)
Ⅵ インスリン抵抗性が肝臓に及ぼすインパクト
糖尿病と肥満の存在は、輸血後C型慢性肝疾患患者での肝線維化進展あるいは術後肝癌再発の予知因子です。また、糖尿病を合併した肝硬変患者は、糖尿病が内患者に比べると肝不全発症のリスクが高いことが知られています。これらの臨床的観察は、糖尿病と肥満に共通する基礎病態であるインスリン抵抗性が、肝臓の脂肪化のみならず炎症・線維化のプロセスにも促進的に作用することを示唆しています。
Ⅶ 肥満、糖尿病を合併したNAFLD患者での栄養療法
標準体重とかけ離れている肥満がある場合は減量が必要です。しかし、急激な体重減少に起因する急激な脂肪分解は、ときにNASHの病理を増悪させることがあります。また、運動療法を伴わない急激な体重減少は、蛋白異化亢進から骨格筋量の減少と基礎代謝量低下を招き、リバウンドを作りやすい状態になります。従って、減量療法は、運動療法と食事療法を併用して、ゆっくりと進めるのが原則です。目標体重としては、非現実的な理想体重(標準体重)ではなくて、受容可能な減量目標体重設定をおこなう必要があります。具体的には調節体重を用いて一日の総エネルギー量を決めることが望ましいとされています。
調節体重 = 標準体重+(現体重ー標準体重)÷4
もとより栄養学的リスクがある肝疾患患者の減量は慎重に行う必要があります。低栄養状態に対する介入と同様に、適宜栄養アセスメントを行いながら進める必要があります。骨格筋を減らさない減量が理想です。実際には、減量効果をみながら、ゆっくり減量できるように指示エネルギー量を加減します。極端な糖質制限はケトン体産生に傾くため、少なくとも糖質は100 g/日以上確保する必要があります。タンパク質は体タンパクの崩壊を防ぐため1.0~1.2g/ Kg/日は必要です。脂質の制限は脂溶性ビタミン不足につながるため、エネルギー比20~25%を基本とします。
一方、肝臓に蓄積する中性脂肪は脂肪酸から変換・合成されたもので、中性脂肪として貯蔵されることで脂肪酸の蓄積による障害を防御する意味があります。またそれ自体はインスリン抵抗性を増大させません。したがって中性脂肪自体は脂肪毒性(リポトキシティ)を起こす本体ではないと考えられています。
NAFLD/NASHは糖尿病や心血管疾患のリスクであるため、最終的には動脈硬化リスクを抑制しうる栄養指導が重要となります。この様な見地から、オリーブ油、ナッツ類、野菜、果物を摂取する地中海型の食事や低炭水化物食が低脂肪食よりも、体重減少と代謝異常改善に有効であることが報告されました。オリーブ油やナッツ類は高カロリーですが、オレイン酸のどの不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸)を豊富に含んでいます。飽和脂肪酸は血清脂質を上昇させて動脈硬化を促すのに対して、多価不飽和脂肪酸は血清脂質低下、血小板の凝固能抑制などの作用があります。また、ナッツ類に含まれる食物繊維には、食後の血糖値上昇やコレステロール増加を抑える作用があります。すなわち地中会食による脂質の質への介入が、脂質の割合を保持しながら、体重、代謝異常、心血管リスクに対する好ましい効果をもたらした可能性があります。
一方、食事性コレステロールが脂肪毒性を有していて、NASH病理とインスリン抵抗性をもたらす可能性があります。
分枝鎖アミノ酸(BCAA:branched-chain amino acid)製剤は近年、肝硬変患者におけるエネルギー低栄養状態の改善薬として大きな役割を果たしています。BCAAはタンパク合成の材料の補充、骨格筋でのアンモニア代謝、骨格筋でのエネルギー源として使用されます。また、BCAA製剤の主成分であるロイシンはグリコーゲン合成酵素を活性化させて骨格筋での糖の取り込みを促進させる一方、インスリン抵抗性を高める可能性も指摘されています。欧州静脈経腸栄養学会は経口のBCAA補充は進行した肝硬変の予後を改善が期待できるとしています。また、厚生労働省のガイドラインの「肝機能を維持し肝発癌の抑制を目指す」の小項目にも分枝鎖アミノ酸製剤の記載が加わり、肝硬変患者の栄養改善におけるBCAA製剤や肝不全用栄養剤の重要性が強調されています。BCAAは主に骨格筋レベルのインスリン感受性が低い患者で耐糖能を改善させる可能性があるともいわれています。
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