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2020年8月3日

アクトスと膀胱癌(その1)

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Ⅰ はじめに
  
2011年の春、フランスの民間団体がフランス政府に対して、調査によって「アクトスが膀胱癌を増やす」ということが明らかになったので、直ちにフランス国内でのアクトスの発売を禁止すべきだと訴えました。この訴えを受けて、フランス政府は、正確な事実関係が明らかになるまで、とりあえず糖尿病患者さんへの新規のアクトス処方は控えることと、すでにアクトス内服中の患者さんではそのまま内服を継続しても構わない、という指示をだしました。
 その後の、アメリカ政府やわが国の検討では、アクトスが膀胱癌を増やすことはないことが明らかにされましたが、フランスでいったい何が起こったのでしょうか。本当にアクトスは膀胱癌を誘発する危険な糖尿病治療薬なのでしょうか。

Ⅱ 2型糖尿病と癌
 
2型糖尿病患者に癌が多いことはよく知られています。2010年にフロリダ州オーランドで開催されたアメリカ糖尿病学会での発表によると、2005年から2008年までの調査で、2型糖尿病患者は糖尿病でない人での癌の発症率を1としたときに、膵癌は1.82倍、結腸直腸癌 は1.30倍、膀胱癌 は1.24倍、前立腺癌 は0.84倍、肝癌 は2.50倍、乳癌 は1.20倍、子宮内膜腺癌 は2.10倍、非ホジキンリンパ腫は1.41倍、それぞれ発症率が高いことが明らかにされました。つまり、2型糖尿病であることは、それだけで癌の危険性が高いともいえるのです。

Ⅲ なぜ糖尿病では癌が多いのか
 
では、なぜ2型糖尿病は癌の発症が多いのでしょうか。キーワードは2型糖尿病に特徴的なインスリン抵抗性による高インスリン血症です。
 インスリンというホルモンは糖尿病の原因ともいえる物質で、私たちの体にある多くのホルモンの中で唯一血糖値を下げる働きがあることで有名ですが、これ以外にも脂肪合成を盛んにしたりする多くの働きがあります。中でも、細胞の突然死を防ぎ、成長や増殖を促す作用が有名で、成長因子として知られています。この作用は正常な細胞ばかりでなく、癌細胞にも効果を示します。したがって、高インスリン血症状態にある人は脂肪合成が盛んに行われて肥満が進む一方で、癌細胞が増殖しやすい環境にあるともいえるのです。
 この様な高インスリン血症になる原因としては、肥満やインスリン抵抗性といった2型糖尿病の原因となる病態が最も考えられる状況ですが、糖尿病治療で用いられるインスリン分泌促進薬であるスルフォニル尿素薬(su薬)の乱用やインスリン治療での過剰なインスリン投与も同様に高インスリン血症をもたらすことが知られいます。
 したがって、アクトスやメトグルコ、ベイスンなどというインスリン分泌を促進しないで、高インスリン血症を改善しながら血糖値を低下させる内服薬は2型糖尿病患者での癌の発症率を下げるとの報告が多くなされていて、私たちもアクトスの癌発症低下作用に期待していました。

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