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2021年5月4日

時間栄養学を応用した食事療法(その3)

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Ⅳ 午前中はインスリン感受性が低い
 
糖尿病患者で午前中のインスリン感受性が1日の中で最も低いことの第2の理由は血中の遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)濃度の日内変動です。インスリンは脂肪合成を促進しますので、食後のインスリン濃度が高いときは、FFA濃度は低下しますが、空腹時などインスリンの働きが弱まると脂肪細胞での脂肪分解が促進されてFFA濃度は上昇します。この脂肪組織由来のFFAは、骨格筋と肝臓のインスリン作用を妨害します。これがメタボリックシンドロームでのインスリン抵抗性の原因の1つと考えられています。
 2型糖尿病患者のFFAは日内変動を示します。前日の眠前から翌朝食前にかけての時間帯のインスリンは基礎分泌だけですから、脂肪組織では脂肪分解に傾き、血中FFAは上昇します。このため、朝食前のFFAが1日の中で最も高値になります。朝食を摂取してインスリンが追加分泌されると、脂肪組織はインスリン増加により脂肪分解から脂肪合成に傾くため、血中FFAは低下します。日中はおおむねFFAに大きな変化はありませんが、昼食から夕食までは間食を摂らない限り絶食時間が長くなりますから、夕食前のFFAは少し上昇します。この様な日内変動をFFAは示します。実際に2型糖尿病患者で調べた結果でも、超食前のFFAが最も高くなっていて、この時間のインスリン感受性が最も低いことが示されました。

Ⅴ Second meal phenomenon(2回目の食事現象)
 
Second meal phenomenon(2回目の食事現象)とは、2回目の食後の血糖値は1回目の食後の血糖値よりも低くなるということを表しています。
 血糖値は毎食前は低く毎食後は高くなるという日内変動を示します。健常人での検討でも、朝食後の食後血糖値が最も高く、昼食後の食後血糖値が低いことが知られています。しかし、朝食を抜いて昼食のみを摂った場合、朝食を摂っていないにもかかわらず昼食後の血糖値が、朝食を摂った場合に比べて明らかに上昇します。さらに朝食と昼食の2食を抜いた場合の夕食後の血糖値をみてみると、朝食と昼食の2食も抜いたにもかかわらず、朝食と昼食をきちんと摂った場合よりも血糖値が遙かに高値になることも知られています。これをSecond meal phenomenon(2回目の食事現象)といいます。
 この様な現象が起こる理由にはこれまで様々な機序が提唱されてきましたが、最近注目されているのは血中FFAとの関連です。これまでみてきたように、FFAは朝食前が最も高く、朝食を摂ることで低下します。朝食と昼食を共に摂った場合は、FFAは朝食後に急激に低下し、昼食前に少し上昇する程度の変動を示します。このため、昼食前の時点でFFAは既に低下していて、インスリン感受性は朝食前より良好であるため、昼食後血糖値は朝食後ほど高くならないと考えられています。一方、朝食を摂らない場合は、昼食前までFFAが高値のままで推移するため、昼食前までインスリン感受性が低下した状態が持続しています。このため、FFAが高いほど昼食後の血糖値が上昇すると考えられています。このことは、朝食と昼食を同時に摂取しなかった場合の夕食後の食後血糖値が異常に上昇することも、このFFA高値の持続によるインスリン感受性の低下で説明できます。
 糖尿病患者では、朝を欠食して1日2食の週間を長年続けているケースが少なくありません。その様なケースでは朝昼兼用食と遅い夕食を摂る場合が多く、毎回の摂取エネルギー量も3回食の毎回の量に比べて多くなっています。従って、FFA高値が朝昼兼用の食事を摂るまで持続してインスリン感受性が低いことに加えて、1回あたりの摂取エネルギー量も多くなるため、食後血糖値は高値になりやすいのです。このため、1日3食の場合と1日の平均血糖値とHbA1cが同程度であったとしても、1日の血糖変動幅が大きくなり、動脈硬化症やその他の糖尿性慢性合併症の発症・進行を予防する上で好ましいこととはいえません。

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