急性冠症候群の慢性期薬物治療(その1)
Ⅰ はじめに
急性冠症候群とは、冠動脈粥腫破綻、血栓形成を共通基盤として急性心筋虚血を呈する臨床症候群のことで、急性心筋梗塞、不安定狭心症、心臓突然死を包括します。わが国では急性冠症候群に冠して発症早期に再灌流療法を行うことが多いため、急性期の急性心筋梗塞の死亡率は著明に低下し、また急性期心筋梗塞に関してはアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬およびアルドステロン阻害薬の有用性が次々に証明されており、急性期のみならず慢性期の死亡率も飛躍的に改善しています。しかしその一方で再発率は依然として高く、二次予防の重要性も認識されつつあります。急性冠症候群の慢性期薬物治療に関して二次予防を中心にみてみます。
Ⅱ 抗血小板薬
急性冠症候群の予防の基本はアスピリン(バイアスピリン100mg錠)です。急性冠症候群におけるアスピリンの心血管イベント予防効果は多数報告されていて、原則的には生涯を通じて必要な薬物です。日本循環器学会の「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」では82~162mgの投与量を推奨しています。
近年ではほとんどの急性冠症候群に対して再灌流療法が行われステントが使用されており、その場合の抗血小板療法にはアスピリンに加えて2剤目としてチクロピジン(パナルジン)ないしクロピドグレル(プラビックス錠75mg)の併用が必要です。特に薬剤溶出性ステント留置後は、ステント血栓症予防のため最低1年間の併用が強く推奨されています。
Ⅲ ACE阻害薬(タナトリル錠5mg)、ARB(アジルバ錠40mg、、オルメテック錠20mg)
ACE阻害薬は、その作用機序から降圧効果のみならず血管拡張効果や心筋梗塞後の左室拡張を抑制する効果が認められています。多くの臨床試験で心筋梗塞患者でのACE阻害薬投与による予後改善効果が確立しています。一方、ARBはその作用機序からACE阻害薬にみられる空咳や血管浮腫などの副作用が生じにくいため、ACE阻害薬に変わって汎用されています。多くの臨床試験でARBがACE阻害薬に比べてほぼ同様の効果があることが示されています。
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