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2021年7月5日

温泉療法の効用(その1)

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Ⅰ はじめに
 
わが国の温泉療法の起源は西暦100年頃に日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東方遠征の帰りに草津温泉で戦傷を癒したことに遡るといわれています。古事記、日本書紀、万葉集などにも温泉の効用が記されています。欧州では紀元前400年頃に医聖ヒポクラテスが行った水治療idroterapiaが起源とされています。わが国で温泉療法が科学的に研究されるのは明治政府が東京大学にベルツ博士を招聘してからです。現代医学は高度に進歩しましたが、高度先端医学を持ってしても癒されない人々が存在します。一方で世界各国には古くから継承されてきた伝承医療があり、これらの癒されない人たちを救済してきました。現在、この様な伝承医療に注目が集まり、相補代替医療(complementary and alternative medicine:CAM)といわれています。

Ⅱ 温泉の科学
 
温泉の医学作用は物理、化学、生物作用からなります。

(1)物理作用

①温熱
 熱い湯に肩まで浸かるのは日本独特の入浴習慣です。温熱には血管拡張、末梢循環の改善、新陳代謝の亢進、疼痛緩和、筋緊張の緩和、精神緊張の軽減、筋・靱帯伸縮性の改善、創傷治癒などの効用があります。
 温泉に溶けている物質が皮膚を被覆して熱の放散を防ぐため、温泉は真湯に比べて保温効果が高いのです。温熱により末梢血管が拡張するため、血管抵抗は低下して心臓の負担は軽減します。細動脈から毛細血管に移行する部位には前毛細血管括約筋があり、通常は大半が収縮して毛細血管を閉鎖していますが、温熱によりこの括約筋が弛緩するため細動脈から毛細血管への血流が増加して、酸素に富む動脈血が大量に細静脈へ注ぎ込みます(静脈血の動脈血化現象)。また毛細血管から末梢組織への酸素供給は増大します。
 温熱は、脊髄から出て筋紡錘に分布して筋緊張を調節しているγ線維の感度を低下させて、骨格筋の緊張を和らげます。またコラーゲンの三重らせん構造を保っている橋かけ構造やファンデルワルス力(分子間の結合力)を弱めるため、筋・靱帯・関節包は伸縮しやすくなります。
 なお、温泉は真湯に比べると熱さを感じにくいので長湯や熱湯となりやすく、温浴の医学的効果は41℃前後が最大となり、42℃を越えると副作用が増大しますから注意が必要です。

②静水圧
 入浴により下半身に水圧がかかり血液や体液は心臓に押し戻され心臓への静脈灌流が増加するため、心臓は拡大して心拍出量は増大します、心臓の拡大により心房性ナトリウム利尿ペプチドが分泌され、利尿効果が起こるため(水溶性利尿)、心臓の容量負荷は軽減します。水圧により腹腔内圧は増加し横隔膜は挙上するため、呼吸器の解剖学的死腔(ガス交換に関与していない空間)が10~15%減少します。
 慢性閉塞性呼吸器疾患では肺が過膨張してドーム状の横隔膜は平板化していますが、入浴により横隔膜は上方に膨らみ換気効率は改善します。

③浮力
 浮力により見かけ上の体重は臍部、剣状突起部(みぞおち)、鎖骨部までの入浴でそれぞれ50~60%、30%、10%までに減少します。関節への荷重負荷は軽減しますから関節疾患の運動療法に好適です。また麻痺した下肢でも容易に体を支えられるようになるため、脳卒中片麻痺などの運動・歩行練習が行いやすくなります。

④粘性
 水中での運動は水の粘性のため抵抗を感じます。体表面全体へ均一に抵抗が加わる等張性運動になるので、心肺への負担は少なく、運動療法としての効果には高いものがあります。また鼻を水中に沈めて息を吐き出す呼吸法では気道内圧が高まり肺胞虚脱を抑制でき、呼気筋力の強化運動としても好適です。

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