糖尿病と睡眠障害（その1）

Ⅰ　自己管理を阻む不規則勤務
　
糖尿病患者さんがいくら自己管理に努めようと努力しても、患者さんを取り巻く現状には、自己管理を阻む要素が多くあります。これらには、不規則勤務や単身赴任のように社会情勢によるものと、うつ病や過食症や拒食症等の摂食障害、睡眠障害のような患者自身に問題があるものがあります。

Ⅱ　不規則勤務による血糖コントロールの乱れ
　
最近は、２４時間営業のコンビニエンス・ストアーは当たり前になりましたし、宅配便でも早朝や深夜の時間指定が可能となり、我々消費者にとってはとても便利な時代になりました。しかし、このような社会情勢の変化に伴って、働く側では様々な不規則勤務が一般化してきています。
　全くの昼夜逆転に近いものから、早番・遅番のように２～３時間の時間のずれの場合もあります。たかだか数時間の時間のずれでも、食事時間が２～３時間ずれるために、インスリン注射をしている糖尿病患者さん、特に１型糖尿病患者さんにとっては、低血糖を引き起こしたりして、血糖コントロールが乱れる大きな問題となります。実際、１型糖尿病患者会がまとめた、「ヤング糖尿病の現状とヤングの声」によると、就職後２８.８％の患者さんで血糖コントロールの悪化がみられ、特に不規則勤務の患者さんや不規則な食事の患者さんで血糖コントロールの悪化が顕著でした。深夜トラック運転手やタクシー運転手、夜警などの勤務者の患者さんは、血糖コントロールに苦慮するばかりではなく、入眠時間や睡眠時間が極めて不規則になるという問題があります。

Ⅲ　睡眠覚醒障害（昼夜逆転病）とは
　
　様々な原因で睡眠が不規則になり、やがては全く昼夜が逆転してしまうような事態になることも珍しくありません。このような中でも、ただ単に睡眠時間が不規則になるのではなく、自分自身で睡眠をコントロールできなくなる睡眠覚醒障害(昼夜逆転病)という病態は、睡眠と覚醒のリズムを司る体内時計が不調となり起こります。睡眠覚醒障害には、寝付く時間と起床時間が後退したまま固定してしまう睡眠相後退症候群、１日が２５時間周期となり少しずつ睡眠時間が遅れる非２４時間睡眠覚醒症候群と、不規則型睡眠覚醒などがあります。
　私たちの睡眠・覚醒サイクルや、深部体温リズムや睡眠に関係するホルモンであるコルチゾールやメラトニンの分泌サイクルはほぼ２４時間の既日リズムを示していて、深部体温は早朝に最低体温となります。この既日リズムを刻む体内時計は生物時計と呼ばれ、ほ乳類では視床下部・視交差上核にあり、既日リズムの発振機能を担うと共に、視覚からの情報を明暗周期に同調させる機能を持っています。しかし、この内因性周期の固有のサイクルは約２５時間で、実際の１日よりも長い周期を持っているのです。
　このため人は本来２４時間より長いサーカディアンリズムの位相を少しずつ前進させて地球上の１日に同調させています。この位相を同調させる因子として社会的同調因子も重要ですが、メラトニン分泌が光により抑制されることが発見されて以来、光が重要な役割を果たすことが判ってきました。すなわち、人は早朝、最低体温出現後(起床直後）に朝の光を浴びることで既日リズム周期を短縮して、本来は２５時間という１日よりも長い体内リズムを２４時間に補正しているのです。